ボール運動が苦手…どうしたらいい?

運動が苦手な子の支援

投げる・キャッチする力を育てる感覚と遊びのヒント

「キャッチボールがうまくできない」「ボールが怖くて避けてしまう」「投げる力が弱い」
そんなお子さんの姿を見て、心配になったことはありませんか?

ボールを使った運動は、遊びの中だけでなく体育の授業でもよく登場します。
だからこそ「できない」「苦手」と感じる体験が、自信のなさにつながってしまうことも少なくありません。

今回は、ボール運動が苦手に見える背景と、感覚統合や理学療法士の視点からできるサポートについてご紹介します。


1. ボール運動が苦手に見える子どもの特徴とは?

一言で「ボールが苦手」といっても、困りごとの現れ方はさまざまです。
たとえば、こんな様子が見られることがあります:

  • 投げるときに力が入らず、ボールが飛ばない
  • 相手の投げたボールをうまくキャッチできない
  • ボールが顔や体に当たりそうで怖がってしまう
  • タイミングがずれて、キャッチや投げがぎこちない

これらは、「運動が苦手だから」とひとくくりにされがちですが、
実は“感覚”や“身体の使い方”に背景があることが多いのです。


2. 感覚統合の視点で見る「ボール運動のつまずき」

ボールを投げたりキャッチしたりする動作には、
いくつかの感覚や身体感覚がうまく連携する必要があります。

● 前庭覚(バランス感覚)

ボールを投げるとき、体をひねったり、片足でバランスを取ったりしますよね。
前庭覚が未熟だと、この「体を安定させる動き」が苦手で、投げるときにグラグラしてしまったり、思うように体を動かせないことがあります。

● 固有受容覚(力加減の感覚)

「どのくらいの力でボールを投げるか」「キャッチするときに手をどれくらい出すか」
こうした感覚は、筋肉や関節からの情報をもとに調整されています。
この感覚がうまく働かないと、強すぎたり弱すぎたりと、動きが安定しません。

● ボディイメージ(身体図式)

自分の腕がどこにあるか、手がどこまで届くか、空間の中でどう動かすか。
こうした「自分の体の地図」がしっかりしていることで、ボールをうまくコントロールできるようになります。
逆にこのボディイメージが弱いと、投げたりキャッチしたりする時に体の動きがちぐはぐになってしまうことがあります。


3. 楽しく遊びながら力を育てる支援のヒント

えいと運動教室では、「苦手を克服する」というよりも、
「遊びの中で楽しく力を育てる」ことを大切にしています。

以下のような遊びは、ボール運動に必要な感覚や運動の土台を自然に育んでくれます。

● 壁当て遊び(投げる感覚を育てる)

壁に向かってボールを投げて、跳ね返ってきたボールをキャッチします。
慣れてきたら、1バウンドでキャッチ、両手→片手、距離を伸ばす、などアレンジも可能です。

理学コメント
理学コメント

壁に向かって投げ、跳ね返りをキャッチする動作では、自分の手の位置やタイミングを調整する必要があります。繰り返し行うことで、自分の体の使い方や力の入れ具合を感覚的に学べます

● 転がしキャッチ(ボールに慣れる)

最初は“転がす”ことからスタート。
相手と向き合ってボールを転がし合い、タイミングや距離感をつかみましょう。
顔に当たる心配が少ないので、ボールが怖い子でも安心して取り組めます。

理学コメント
理学コメント

ボールの動きを視覚で追い、体で反応する中で、視覚と運動の連携が強化されます。また、顔に当たる心配が少ないため、前庭覚が過敏な子にも安心して取り組めます

● ターゲットあて(狙う感覚を育てる)

段ボールやペットボトルを的にして、当てる遊び。
「当たった!」「倒れた!」という成功体験が喜びにつながり、繰り返すことでコントロール力も育ちます。

理学コメント
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狙って当てるという行為は、距離感・方向感をつかむ練習になります。繰り返す中で「どのくらいの力で」「どこを狙えばいいか」が身体感覚として身につきます。

● お手玉(感覚の違いに気づく)

柔らかいお手玉のような、重さや質感が違うことで手に伝わる感覚が強くなり、投げる・受け取るの動きがわかりやすくなります。

理学コメント
理学コメント

お手玉のような素材は「投げる」「受け取る」動きがゆっくりになり、体の動きを意識しやすくなります。柔らかさや重さの違いが、手や腕に伝わる感覚を豊かにし、動きの調整に役立ちます。


4. おわりに:できた!の積み重ねが力になる

ボール運動が苦手に見える背景には、感覚や体の使い方の“発達のグラデーション”が隠れていることがあります。
だからこそ、無理に上手にさせようとするのではなく、まずは「楽しく・安心して・続けられる」ことが大切です。

一緒にボールで遊ぶ時間の中で、少しずつ「できた!」という瞬間を増やしていきましょう。
その積み重ねが、子どもの自信とチャレンジする気持ちにつながっていきます。


参考文献

NCBI「Vestibular and proprioceptive function in motor control」

Ayres A.J.(2005)感覚統合と運動発達

佐藤哲史・森田哲史(2020)感覚統合と運動感覚の教科書

Middletown Centre for Autism「Sensory Processing」

Chicago Occupational Therapy「Sensory Activities」

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