【はじめに】
「リレーになると走れなくなる」
「集団でやる運動になると、うまく動けなくなる」
そんな悩みをお持ちの保護者の方も多いのではないでしょうか。
走る・跳ぶなどの基本的な運動ができても、“みんなと合わせて動く”ことに戸惑う子がいます。
理学療法士として子どもと関わる中で感じるのは、
集団での運動には「走る力」だけでなく、**“予測して、他人と動きを合わせる力”**が必要だということ。
この力は、筋力や体力だけではなく、感覚や脳の情報処理の仕方とも深く関係しています。
この記事では、集団運動が苦手に見える子どもの背景にある感覚的な特性と、家庭や教室でできるサポート方法を紹介します。
【背景】リレーや集団運動でうまく動けないのはなぜ?
◆「走れない」わけではなく、「合わせられない」から止まってしまう
個人でのかけっこはできるのに、リレーになると走れない。
“みんなとタイミングを合わせて動く”ことが、本人にとってはとても高度なスキルになっていることがあります。
たとえば…
- バトンをもらうタイミングがつかめず、立ち尽くしてしまう
- みんなが動いた瞬間にびっくりして遅れてしまう
- 周囲のスピードに合わせることができず、焦って転ぶ
こうした場面では、「走るのが苦手」なのではなく、
周囲を感じて・状況を読み取り・次の動きを予測して行動することに苦手さがあるケースが多いです。
【やり方】予測や協調が難しい子に見られる感覚的な特性
① 視覚や聴覚の情報を処理するのがゆっくり
- 周囲の動きや音がいっぺんに入ってきて、何に注意すればいいのか分からなくなる
- 動きが早すぎてついていけず、固まってしまう
- 合図や声かけが聞こえても、理解・反応までにタイムラグがある
② “次の動き”をイメージしづらい(感覚統合の未熟さ)
- バトンを渡される・受け取るなどの一連の流れが頭の中に浮かばない
- 「次に何が起こるか」が予測できず、急な変化で混乱する
- 動きを真似ることはできても、パターンの応用が苦手
③ 他者との動きの“ズレ”に過敏/鈍感で、混乱する
- 周囲とズレると恥ずかしくなったり、プレッシャーで動けなくなる
- 逆に、周りの動きを感じとることが難しく、自分勝手に動いてしまう
- 「何となく合わせる」ができず、常に失敗感を抱いてしまう
【工夫】家庭で見られるサインとチェックポイント
日常生活の中でも、以下のような様子が見られる場合は要チェックです。
- お友達との「ルールのある遊び」が苦手(鬼ごっこ・ドッジボールなど)
- 順番を待てずに先に動いてしまう or 合図がないと動けない
- 急に止まったり、急に走ったりする動きができない
- 集団行動の中でいつもワンテンポ遅れて動いている
これらは、予測・切り替え・協調性の力がうまく働いていないサインかもしれません。
【工夫】“予測”と“協調”の力を遊びの中で育てるには?
◆ 「予測」を育てる遊び
- 音に合わせて動く遊び(リズムステップ、手拍子に合わせてジャンプ)
- まねっこ遊び(大人の動きを見て真似する:まねっこ体操など)
- ルールがシンプルで、展開が読める遊び(だるまさんがころんだ)
※同じパターンを繰り返すことで「次にこうなるかも」という感覚を育てます。
◆ 「協調」を育てる遊び
- ペアで動く遊び(手つなぎジャンプ、ペアスキップ)
- 追いかけごっこ・しっぽとり(相手の動きを見て動く経験)
- ボール回し・風船運び(相手とペースを合わせる経験)
※最初は一対一から始め、徐々に人数を増やしていくのがポイントです。
◆ 焦りや混乱を防ぐための工夫
- スタートの合図を明確に(「せーの」などリズムのあるかけ声)
- 活動の流れを事前に示す(写真カード・動作見本など)
- 他人の目が気になりすぎる子には「見られていない環境」で練習を
【まとめ】集団での運動も、“感覚の力”が支えています
リレーや集団遊びでうまく動けない子の中には、
「運動が苦手」なのではなく、周囲と動きを“合わせる”ことが難しい子どもたちがいます。
その背景には、視覚や聴覚の処理のしづらさ、感覚統合の未熟さ、予測・協調の困難さなど、
本人ではコントロールしきれない“感覚的なつまずき”があることも多いのです。
まずは、「合わせるのが苦手なのは、感覚や経験の問題かもしれない」と知ることから始めてみてください。
その子に合ったペースで、“合わせる”という力を少しずつ育てていくことができます。
参考文献
- 柳澤弘樹・大高正為(監修)『感覚統合と運動感覚の教科書』明治図書出版(2021)
- 齋藤昭彦(著)『子どもの運動と発達を支える 感覚統合の基本』協同医書出版社(2019)
- 日本感覚統合学会 編『感覚統合に基づく作業療法 改訂第3版』三輪書店(2018)