【はじめに】
体育の授業になると、こんな様子はありませんか?
- 着替えに時間がかかり、いつも最後まで残っている
- 片付けになると、何をすればいいか分からず立ち尽くしている
- 周りの子が次々に動いていく中で、一人だけ遅れてしまう
「のんびりしてるのかな?」「やる気がないのかな?」と感じるかもしれませんが、
実は、感覚の切り替えの難しさや、段取りを立てて動く「実行機能」の弱さが関係していることもあります。
本記事では、体育の“準備・片付け”が苦手な子どもたちの背景と、家庭でできるサポートの工夫を紹介します。
【背景】体育の“準備・片付け”が苦手な子どもの様子とは?
体育が始まる前や終わった後の行動で、こんな場面を見たことはありませんか?
◆ 支度に時間がかかる
- 体育着に着替えるのが遅く、いつも出遅れてしまう
- 服を脱ぐ・しまう・整えるのに一苦労
- 「着替える」という流れが頭に入っていないように見える
◆ 片付けの段取りがわからない
- 使った道具をどこに戻せばいいか分からずウロウロする
- 他の子に流されて動くだけで、自分では判断できない
- 片付け中に集中が切れて、違うことを始めてしまう
これらは、「意欲の低さ」ではなく、感覚の調整や段取りの難しさによるものかもしれません。
【やり方】感覚の切り替えや実行機能が関わっていることも
① 感覚の切り替えが難しい:「始まりのスイッチ」が入らない
- 休み時間から切り替えて着替えるのが難しい
- 気持ちを運動モードに切り替えるのに時間がかかる
- 「さあ始めよう!」の合図が頭に入りづらい

理学コメント
感覚統合が未熟だと、注意を切り替える力や刺激への適応がゆっくりになる傾向があります。
② 身体図式が弱く、空間の把握や動作の流れがあいまい
- 「どこで・何を・どうするか」のイメージが湧かない
- カバンの中身をうまく整理できない
- 服の前後や裏表を間違える
→ これは、**身体図式(自分の身体や動きを空間内で把握する力)**が育ちきっていないサインでもあります。
③ 実行機能が弱く、順序や記憶の整理が苦手
- やることを忘れてしまう(靴を履かずに走り出す など)
- 物の順番がバラバラで効率よく動けない
- 自分で流れを整理して行動するのが難しい
→ 「見通しを持って行動する」「段取りを立てて準備する」といった実行機能の課題も背景にあります。
【観察】家庭で気づけるサイン
以下のような行動があれば、「実行機能や感覚の切り替え」が苦手な可能性があります。
- 朝の支度に時間がかかる
- お風呂の準備や片付けに手間取る
- 「やり始めるまでに時間がかかる」傾向がある
- 終わった後に「片付け」の意識が抜けやすい
- 服の着脱や持ち物の整理が毎回ぐちゃぐちゃになる
【工夫】“段取り力”と“切り替え”を育てる支援法
◆ 視覚的に流れを見せる
- 「やることボード」や「写真スケジュール」で、支度の流れを目に見える形に
- 片付けも「① 机を拭く → ② 道具をかごに戻す → ③ 自分の服をたたむ」など順番を具体的に
◆ タイムタイマーや音で時間の見通しを
- 「あと3分で着替え開始!」といった声かけ+タイマーで、予測と切り替えを支援
- 時間の可視化が、“今やること”への集中を助けます
◆ 遊びの中で「流れ」を経験させる
- お着替え競争(自分の服を順番通りにたたむゲーム)
- 片付けビンゴ(片付け完了するたびにスタンプ)
- 真似っこ片付け(大人の動きをなぞる形で、流れを学習)
【まとめ】運動の前後にも“支援が必要な力”がある
「運動ができる/できない」だけが体育の問題ではありません。
準備や片付けといった“前後の行動”にも、感覚や認知の力が必要です。
本人の中では、「やりたいのに、どう動けばいいか分からない」「頭では分かっているけど体が動かない」そんな葛藤を抱えていることも少なくありません。
大切なのは、“見えている行動の奥にある背景”に気づくこと。
少しの工夫で、その子が「できた!」と思える瞬間がぐっと増えていきます。
参考文献
- 柳澤弘樹・大高正為(監修)『感覚統合と運動感覚の教科書』明治図書出版(2021)
- 木村順(著)『実行機能を育てる 発達が気になる子の支援ヒント』中央法規出版(2022)
- 齋藤昭彦(著)『子どもの運動と発達を支える 感覚統合の基本』協同医書出版社(2019)