【はじめに】なぜ体がかたいのか?
「体がかたくて困ってるんです」
「ストレッチを嫌がってすぐやめちゃいます」
柔軟体操が苦手な子を見て、そう感じる保護者の方は多いのではないでしょうか。
でも実は、“体がかたい”と一言で言っても、筋肉が伸びにくいだけが原因ではありません。
理学療法士として子どもたちと関わる中で、「感覚の使い方」や「体のイメージ」が柔軟性に大きく影響しているケースを多く見てきました。
この記事では、感覚統合の視点をもとに、柔軟体操が苦手な子どもに見られる特徴と、その支援方法についてお話しします。
「柔軟性がない=筋肉がかたい」ではない理由
◆ 筋肉の硬さだけが原因ではない
「筋肉が伸びにくい=体がかたい」という見方は一部正しいものの、子どもの場合はそれだけでは不十分です。
柔軟体操を「怖い」「痛い」と感じる背景には、以下のような感覚や運動の苦手さが関わっていることがあります。
◆ 感覚統合の視点から見る“かたさ”の理由
- 固有受容覚が弱い:筋肉や関節の動きを感じづらく、「今どこまで曲がっているか」がわかりにくい。
- 力のコントロールが苦手:全身が“ガチッ”と固まり、うまく力を抜けない。
- 身体図式が曖昧:自分の体のパーツを正確にイメージできず、「どこをどう伸ばせばいいか」分からない。
こうした感覚の使いづらさが、「痛い」「不快」と感じさせ、柔軟体操を避ける原因になっているのです。
【やり方】柔軟体操が苦手な子に見られる3つのタイプ
① 筋肉がかたくて本当に伸ばしにくい子
- 成長痛や姿勢の崩れなどで、筋緊張が高まりやすい。
- 例:太ももの裏(ハムストリングス)がかたく、前屈がしにくい。
② 力の“抜き方”がわからず、常に体が固まっている子
- 固有感覚の使い方が苦手で、リラックスができない。
- 触れられるとびくっとする子にも多い傾向。
③ 身体イメージが弱く、どう動かせばいいか分からない子
- 体の部位と動きのつながりが曖昧で、指示に反応しづらい。
- 例:「前屈して」と言われても、どこを曲げるのか迷う。
【工夫】家庭で見られるサインと観察ポイント
以下のような様子があれば、感覚的な苦手さが関わっている可能性があります。
- 床に座ると、背中がすぐ丸まる
- 前屈で、膝がすぐ曲がる・怖がって止まる
- ストレッチのときに笑う・泣く・動かなくなる
- 触れられるのを嫌がる、くすぐったがる
これらは“柔軟性の低さ”ではなく、“感覚の使いづらさ”のサインかもしれません。
【工夫】柔軟体操を「嫌がらずできる」工夫と遊び
◆ ゴロゴロ・曲げ伸ばし・脱力を遊びにする

- 床でごろごろ転がる:背骨や股関節の動きが自然と出る
- タオル引っ張り合い:固有感覚への刺激で「力の出し入れ」を学べる
- ヨガ風ポーズ遊び:いろんなポーズをまねして体を伸ばす体験に
◆ 声かけの工夫
- 「がんばって伸ばして!」よりも
→「フーって息を吐いてみよう」「手が遠くに行く感じで」など感覚に寄り添う声かけ
【まとめ】柔軟体操も“感覚の育ち”のひとつです
子どもの体のかたさは、ただの筋力や柔軟性の問題ではないことがあります。
それよりも、“どう体を感じているか”“どう動かし方を理解しているか”が大きく影響します。
保護者の方にぜひ伝えたいのは、「無理に伸ばすこと」よりも、「体と仲良くなること」が大切だということです。
子どもが「伸ばすって気持ちいい」と思える体験を、少しずつ増やしていきましょう。
参考文献
記事下部や脚注に以下のように表記可能です:
- 柳澤弘樹・大高正為(監修)『感覚統合と運動感覚の教科書』明治図書出版(2021)
- 齋藤昭彦(著)『子どもの運動と発達を支える 感覚統合の基本』協同医書出版社(2019)
- 日本感覚統合学会 編『感覚統合に基づく作業療法 改訂第3版』三輪書店(2018)