跳び箱が苦手なお子さん、実はとても多いです。
「踏み切りのタイミングが合わない…」
「跳ぶ前に止まってしまう…」
「そもそも跳び箱が怖い!」
こんな声、聞いたことありませんか?
今回は、跳び箱が苦手に見える理由と、その背景にある“感覚の育ち”について、理学療法士としての視点も交えてお話しします。
1. どの感覚が弱いと、どう見える?
● 前庭覚(バランス感覚)の未熟さ
前庭覚は“体の動きを感じるセンサー”です。
走って勢いをつけたり、踏み切り板でジャンプするような“動きの変化”を感じて調整する力に関わります。
→ この感覚が弱いと…
・スピードをつけて跳び箱に近づけない
・ふらついて助走が止まってしまう
・ジャンプの瞬間に体がついてこない
● 固有受容覚(力加減の感覚)の未熟さ
体の中でどのくらいの力を出せばいいか、関節や筋肉の感覚でコントロールする役割です。
→ この感覚が弱いと…
・踏み切り板を強く踏み込めない
・腕で体を支えるタイミングが合わない
・跳び箱を“乗り越える”力が出しづらい
● ボディイメージ・身体図式の未熟さ
自分の体のサイズや位置関係をイメージする力です。
→ この感覚が弱いと…
・跳び箱の位置がつかみにくい
・“どこに手をつくか”がわからない
・体を思い通りに動かしにくい
● 運動の協調性(タイミング・リズム)の課題
“走って、踏み切って、跳ぶ”という一連の動きをスムーズにつなげる力です。
→ この感覚が弱いと…
・助走のリズムがうまく取れずタイミングがズレる
・“跳ぶ”動作に移れず、止まってしまう
2. 家庭でチェックできる観察ポイント
「うちの子、どこが苦手なんだろう?」と感じたら、こんな動きに注目してみてください。
- ブランコや滑り台を怖がる(前庭覚)
- 縄跳びやケンケンが苦手(固有受容覚・バランス)
- 自分の身体の動かし方がぎこちない(身体図式)
- 連続した動きが苦手(協調性)
少し専門的に聞こえるかもしれませんが、
「なぜか動きが不自然」「ぎこちない」「怖がる」などは、感覚がうまく連携していないサインかもしれません。
3. 支援と遊びの工夫でできること
● 跳び箱の高さを下げる/マットに置き換える
最初から“跳び箱を跳ぶ”ことにこだわらず、「またいでみよう」「手をついてみよう」など、段階を踏んで慣れることが大切です。
● 踏み切り動作を切り出して遊ぶ
踏み切り板の代わりにクッションや段差を使って、「ジャンプ」の練習だけを行います。
ジャンプマットやカラースポットなど視覚的な目印も効果的です。
● 手をつく動きの経験を増やす
クマ歩き、カエル跳びなど、手を床につけて体を支える全身運動は、跳び箱に必要な動作の“前段階”として有効です。
● タイミング遊びで協調性アップ
ジャンケン走や、リズムに合わせてステップするゲームを取り入れると、運動の“流れ”をつかむ練習になります。
まとめ:できることから、少しずつ
跳び箱は「助走→踏み切り→跳ぶ→着地」と、複雑な運動が連続する種目です。
どれか1つでも“感覚の土台”が未発達だと、難しく感じて当然です。
「跳び箱が跳べない=運動が苦手」ではありません。
その子にとって“今はどんな経験が必要なのか”を知ることで、次への一歩が見えてきます。
えいと運動教室では、子どもたち一人ひとりの感覚の育ちに合わせた支援を行い、
「できた!」「楽しい!」の瞬間を積み重ねていきます。
参考文献
NCBI: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/
『感覚統合と運動感覚の教科書』佐藤哲史・森田哲史/株式会社少年写真新聞社
Ayres, J. (2005). Sensory Integration and the Child
文部科学省:学習指導要領 体育編
CHICAGO OCCUPATIONAL THERAPY. (n.d.). https://chicagooccupationaltherapy.com