~感覚統合の視点から考える「タイミング」「リズム」「体のコントロール」~
■ 背景:縄跳びの「何が難しいのか?」
「うちの子、縄跳びになると急にできなくなるんです」
そんな相談をよく受けます。
運動会や体育の授業でよく登場する「縄跳び」。
一見シンプルな動きですが、実は“リズム”“タイミング”“身体イメージ”といった複数の感覚の連携が必要な、かなり高度な運動です。
特に、次のような子どもたちは苦手さが出やすい傾向があります:
- 縄のタイミングに合わせて跳ぶことが難しい
- ジャンプの力加減や高さの調整ができない
- 手と足の動きがバラバラになる
- 縄を「くぐる」ような動きのイメージが持ちにくい
ここには、「感覚統合」の視点から見える“体の使いづらさ”が隠れています。
■ やり方:どんな感覚の課題がある?
縄跳びがうまくできない子は、次のような感覚の課題が関わっていることがあります。
① 前庭覚(タイミング・リズム感のズレ)
ジャンプのリズムがずれてしまう、跳び続ける感覚の持続が難しい。
② 固有受容覚(力加減・ジャンプ調整の難しさ)
縄を飛び越えるのに十分な高さを出せない、または強く跳びすぎてしまう。
③ ボディイメージ(縄との距離感・空間認識)
縄が足元にくる感覚がつかめない、縄が当たるのが怖くて動きが固まる。
④ 協調運動(手と足の同時動作の難しさ)
手で回す動作と足でジャンプする動作がうまく組み合わさらない。
■ 工夫:家庭でできる観察&支援アイデア
縄跳びの苦手さには、「ただ練習すればできるようになる」とは言い切れない理由があります。
子どもの感覚に寄り添いながら、少しずつ体を慣らしていくような支援が必要です。
ここでは、家庭でできるサポートを3つに絞って紹介します。
それぞれの背景や意味も含めてお伝えするので、ぜひ“できる・できない”だけでなく、“なぜうまくいかないのか”という視点で見てみてください。
① 「その場ジャンプ」で“リズムと力加減”を育てる

縄を使わずに、同じ場所でリズムよくジャンプを繰り返す遊びです。
「いーち、にーい、さーん」と声に出しながら一緒にジャンプ。慣れたら音楽や手拍子に合わせて跳んでみましょう。
この遊びで育つ感覚:
- 前庭覚(リズムを感じて繰り返す力)
- 固有受容覚(力の調整とジャンプの高さ)
保護者のチェックポイント:
ジャンプのテンポが安定しているか?過剰に跳びすぎていないか?
② 「タオルジャンプ」で“怖さ”をやわらげる

柔らかいタオルを床に置き、それをジャンプで越える遊びです。
慣れてきたら保護者がタオルを両端で持ち、静止した状態のタオルを跳び越えてみます。
この遊びで育つ感覚:
- 身体図式(足元の距離感)
- 前庭覚+安心感(動きと安心感のセット)
保護者のチェックポイント:
跳ぶ前の緊張やこわばり、跳んだ後の表情や安心感に注目。
③ 「親が回してあげる」で“タイミングの体験”をつくる

一人で縄を回すのが難しい子には、まず親が回してあげる方法が効果的。
「今だよ!」という声かけをしながら、タイミングの感覚を身体で体験させてあげましょう。
この遊びで育つ感覚:
- 協調運動(手と足の連携)
- 前庭覚(リズム・タイミングの感覚)
保護者のチェックポイント:
跳ぶタイミングにズレがあるか?何回連続で跳べたか?表情はどうか?
■ まとめ
縄跳びは、単なるジャンプ運動ではなく、「感覚の連携」が必要な複雑なスキルです。
縄が怖い、リズムが合わない、タイミングがつかめない――
その背景には、前庭覚・固有受容覚・ボディイメージ・協調運動といった感覚の育ちが関係しています。
できないことを責めるのではなく、「今はどんな感覚が育ちにくいのか?」という視点で見守ってみてください。
感覚の土台が整えば、動きは自然とスムーズになっていきます。
焦らず、遊びながら楽しく取り組んでいくことが、子どもにとって一番の支援です。
📚 参考文献
- 佐藤哲史・森田哲史(2021)『感覚統合と運動感覚の教科書』秀和システム
- Ayres, J. (2005). Sensory Integration and the Child. Western Psychological Services.
- 文部科学省『学習指導要領(体育)』