不器用さ・ぎこちなさが目立つ子への支援

運動が苦手な子の支援

― 動きの“つながり”を育てるには?


1. なぜそうなるの

「なんだか、動きがぎこちないんです」
そう相談されるとき、私は“その子の体がどんなふうに動いているのか”を丁寧に思い浮かべます。

たとえば——
・縄跳びのタイミングがつかめず、腕と足がバラバラになる
・鉄棒で足を持ち上げるとき、全身がかたまり、動きが止まってしまう
・お手本を見せても「どこをどう動かせばいいの?」という表情になる

こうした「ぎこちなさ」や「不器用さ」は、“体を思い通りに動かす感覚”がまだ育ちきっていないサインかもしれません。

これは決して「やる気がない」「能力が低い」からではありません。
まだ「自分の体の動かし方」が分からず、頭と体のあいだにズレがある状態なのです。

このズレを解消するカギは、**運動協調性(スムーズな連動)**や、**身体図式(自分の体の位置・形のイメージ)**を育てることにあります。


2. 家庭で見られるサイン

ぎこちなさが目立つ子には、日常の中でこんな特徴が見られます。

  • 歩くときに“足と手”の動きがぎこちなく、バラバラに感じる
  • ボールを投げたり、受け取ったりする場面で、全身が“止まって”しまう
  • 着替えのときに服の袖やズボンに手足を入れにくく、まごつく
  • スキップができず、「右・左・右・左」のリズムが途切れる
  • 身体を急に動かすのが苦手で、動き始めるまでに時間がかかる

一見すると「不器用」「運動が苦手」と見えるかもしれませんが、実際には、
「どこを、どの順番で、どのくらい動かせばいいか」が“わからない”という感覚の問題が多くあります。


3. 観察ポイント(家庭でできるチェック)

ぎこちなさは、“結果”ではなく“過程”に表れます。
以下のような視点で観察してみてください。

  • ❍ スキップやケンケンなどのリズム運動ができるか
  • ❍ 動き出すまでに時間がかかる(例:ジャンプ前に体が止まる)
  • ❍ 模倣あそび(まねっこ体操)で、すぐに動き出せるかどうか
  • ❍ 動きがどこかぎこちなく、急に力が入る/抜けるタイミングがある
  • ❍ 同時に2つ以上の動き(走りながら手を振る)が難しそうに見える

もしこのような特徴がいくつか当てはまるなら、動きのつながりをサポートすることで変化が期待できます。


4. 支援の工夫(遊びや取り組み)

▶ 全身を使った“まねっこ体操”

動きのぎこちなさがある子は、自分の体のイメージがぼんやりしていることがあります。
そんな子にとって、“人の動きをまねる”という経験は、自分の体を知る入口になります。

例)
・「ワニ歩き→クマ歩き→手をパッとひろげてポーズ!」など、流れのある模倣あそび
・動きを止めて「いま、どこが動いたかな?」と声かけしてみる

→ 体のパーツを意識しながら、順番やスピードの感覚が育っていきます。


▶ 道をたどる運動(空間感覚と身体図式)

「マーカーの上を歩く」「平均台の上を落ちずに歩く」など、体の位置と周囲の空間を結びつけるあそびも効果的です。

特におすすめは、「カーブ」や「ギザギザ」などルートに変化をつけること
→ 進みながら“体を調整する力”が自然と育ちます。


▶ ゆっくり → リズム → スピードアップの段階支援

動きのぎこちなさを和らげるには、スピードを落として整理する時間が必要です。

① ゆっくりした動きからはじめて、
② 音楽やリズムに乗せて“動きのテンポ”をつけ、
③ 最後にテンポを速めたり、自由に動いてみる

たとえば「1・2・3で足を上げる」→「音楽に合わせて足踏み」→「少しずつ早くしてみる」など、段階を踏むことで動きの連動が身につきます。


5. まとめと伝えたいこと

「うちの子、なんかぎこちないな…」
そう感じたとき、大人ができることは、「できる/できない」で判断するのではなく、
“動きを整理する体験”を一緒に積み重ねていくことです。

ぎこちなさの背景には、感覚の未整理体のイメージの弱さがある場合が多く、
それはゆっくりとした動き、まねっこ、空間とのかかわりなどを通じて、少しずつ育っていきます。

焦らず、繰り返し、遊びの中で。
「動けた!」という小さな喜びが、自信と感覚の育ちをつないでいきます。

参考文献

  • Ayres, A. J.(2005). 感覚統合と運動発達. 明石書店.
  • 佐藤哲史・森田哲史(2020). 動作感覚の教科書. 黎明書房.
  • 文部科学省(2020). 学習指導要領 体育編. https://www.mext.go.jp
  • 日本感覚統合学会(2024). 感覚統合Q&A. https://www.jsir.jp
  • 日本小児理学療法学会(2022). 子どもの運動発達と理学療法. https://jspt.org
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