はじめに|5歳は「運動の土台」ができる時期
「うちの子、よく転ぶんです」「スキップがどうしてもできなくて…」
運動に関するこんな声を、5歳の子どもを育てる保護者からよく聞きます。
でも実は、5歳という年齢は「動きの基本」が一通り揃ってくる、とても大切な時期なんです。
姿勢を支える体幹、バランスを保つ感覚、手足の動きをコントロールする力。こうした土台が少しずつ安定してきて、走る・跳ぶ・スキップするといった複雑な動きも、ようやく形になってきます。
今回は、小児理学療法士の立場から、5歳で身につけておきたい運動能力と、家庭でできる支援のコツをわかりやすくご紹介します。
5歳児で身につけておきたい基本動作
文部科学省の「幼児期運動指針」や各自治体の発達ガイドラインなどを参考に、5歳児で多くの子が身につけ始める動きは以下のようなものです。
動作 | 目安 |
---|---|
片足立ち | 約10秒以上安定して立てる |
片足跳び(ケンケン) | 左右それぞれ5回以上連続 |
スキップ | リズムよく交互にステップを踏める |
前転(でんぐり返し) | マットの上でスムーズに回れる |
ボール投げ・キャッチ | 距離をつけて狙って投げられる/両手でキャッチ |
特に片足立ちとスキップは、体幹の安定性とバランス感覚、リズムを同時に使うため、苦手な子が多いポイントでもあります。
動きの背景にある“感覚”と“発達”のしくみ
「うまく動けない」「動きがぎこちない」と感じたとき、その背景には単なる“練習不足”だけでなく、感覚の発達の偏りが関係していることもあります。
たとえば…
- 体の中心(体幹)を支える力が弱い
→ 姿勢が崩れやすく、ジャンプや片足立ちが不安定になりやすい - 固有受容覚(自分の体の位置を感じる力)が未熟
→ ジャンプのタイミングがズレる、スキップがぎこちなくなる - 前庭感覚(バランスを取る感覚)が弱い
→ 片足立ちやケンケン、でんぐり返しが難しい
感覚の成熟度には個人差があり、決して“できない=問題”ではありません。
でも、どの感覚が苦手そうかを見極めることで、その子に合ったアプローチができるようになります。
家庭でできるチェックポイントと遊び例
「うちの子、どんな動きが苦手なのか分からない…」
そんなときに使える、家庭での簡単チェックと遊びアイデアをご紹介します。
🔸 チェック①:片足立ち
→「10秒」キープできるか?左右差はないか?
遊び例:
- 片足立ちゲーム(タイマーで測定)
- バランスボードやクッションの上でバランス遊び
🔸 チェック②:スキップ
→ 両足交互に跳べるか?リズムがとれているか?
遊び例:
- スキップで鬼ごっこ
- 音楽に合わせてケンケンパ遊び
🔸 チェック③:でんぐり返し・前転
→ スムーズに回れるか?回った後に起き上がれるか?
遊び例:
- お布団の上で前転ごっこ
- トンネルくぐり遊びで“丸くなる感覚”を育てる
運動が苦手な場合の支援のヒント
もし、周りの子と比べて「ちょっとできてないかも?」と感じたとしても、焦らなくて大丈夫。
運動発達には経験の差がとても大きく影響します。
苦手を感じるときは、次の3つを意識してみてください。
- できた!を積み重ねる
→ 「5秒立てたね!」と小さな成功を一緒に喜ぶ - “遊び”の中に取り入れる
→ トレーニングではなく、家族での遊びを中心に - 苦手な動きは“分解”して練習
→ スキップが苦手なら、まずケンケンから始める
理学療法士として伝えたいこと|焦らず、楽しく動く経験を
私は普段、小学生を中心に運動支援を行っている理学療法士です。
5歳前後の子どもたちに関わっていていつも感じるのは、「楽しそうに動いている子は、ぐんぐん伸びていく」ということです。
だからこそ、「◯◯ができない」と思う前に、「どんな動きなら楽しめそうかな?」と視点を変えてみてください。
ときに遠回りに見えるかもしれないけれど、遊びながらの経験が、運動の苦手を乗り越える“いちばんの近道”になります。
まとめ
5歳は、片足立ち・スキップ・ジャンプなど、「動きの基礎」が揃い始める時期。
その背景には、体幹・バランス・感覚の育ちが深く関わっています。
家庭では、片足立ちゲームやスキップ鬼ごっこなど、遊びを通して“できた!”を増やすことが、子どもにとって最高の運動支援になります。
「楽しそう!」が動き出す力になります。
まずは今日、何か一つ、親子で一緒に体を動かしてみてください。
📚 参考文献
- 文部科学省「幼児期運動指針」
- 苫小牧市「発達のめやす」PDF
- Gallahue D.L.『Understanding Motor Development』
- McClenaghan & Gallahue(1982)”Assessing Motor Development in Young Children”