発達障害と運動

感覚統感覚統合とは?運動・学習・日常生活をスムーズにする仕組み合とは? こどもの発達と運動の関係を知ろう

1. 感覚統合とは?

子どもが日々の生活をスムーズに過ごすためには、さまざまな感覚情報を脳で処理し、適切に行動につなげる能力が必要です。

「感覚統合(Sensory Integration)」とは、視覚・聴覚・触覚・固有受容覚・前庭覚など、複数の感覚を脳で統合し、身体をうまくコントロールするプロセスのことを指します。

例えば、子どもがボールをキャッチするとき、次のような感覚が関わっています。

  • 視覚:ボールの位置や動きを目で追う
  • 固有受容覚:自分の手足の位置や動きを把握する
  • 前庭覚:バランスを取りながら動く
  • 触覚:ボールの感触を感じながらキャッチする

これらの感覚がスムーズに統合されることで、適切なタイミングでボールをキャッチすることができます。


2. 感覚統合がうまくいかないとどうなる?

感覚統合がうまく機能しないと、きのぎこちなさや、感覚の過敏・鈍感、注意力の低下などが起こることがあります。

① 運動面の困りごと

  • 体の使い方がぎこちない(縄跳びや跳び箱が苦手)
  • 転びやすい、バランスが取れない(姿勢を維持しにくい)
  • 力加減がうまくいかない(弱すぎる・強すぎる)

② 情緒面・学習面の困りごと

  • 集中しにくい、落ち着かない(注意が散漫)
  • 音や触覚に敏感すぎる/鈍感すぎる(感覚過敏・感覚鈍麻)
  • 文字の読み書きが苦手(目と手の協調がうまくいかない)

こうした問題は、発達障害(自閉スペクトラム症・ADHD・学習障害)を持つ子どもにも多く見られるため、感覚統合のアプローチが役立つことがあります。


3. 感覚統合と発達障害の関係

発達障害の子どもは、感覚情報の処理がうまくいかず、「感覚過敏」「感覚鈍麻」「感覚探求」の特徴を持つことがよくあります。

感覚の特性具体的な様子
感覚過敏服のタグが気になってしまう、大きな音に過剰に驚く
感覚鈍麻転んでも痛がらない、手足の位置を把握しづらい
感覚探求強い刺激を求めて走り回る、物を強く叩く

このような感覚の偏りがあると、日常生活や運動がスムーズに行えないことがあります。
だからこそ、感覚統合を促す遊びや運動を取り入れることが大切なのです。


4. 感覚統合を育てるために大切な3つの感覚

感覚統合の基礎となるのは、以下の3つの感覚です。

① 前庭覚(バランス感覚)

  • 頭の位置や体の傾きを感じ取る能力

    前庭感覚は、体の傾きや動きを感じ取り、バランスを取るための重要な感覚です。自分がどの方向に動いているのかを把握し、空間の中での自分の位置を認識することで、目の動きや姿勢を調整する働きもあります。
    前庭感覚の感覚統合がうまくいかないと、すぐ転んでしまったり、バランスが取れずに姿勢が崩れたりすることがあります。また、高い所を極端に怖がる、ブランコや遊具で酔いやすいといった症状が見られることもあります。さらに、目の動きがぎこちなくなり、文字を読むスピードが遅くなることもあります

② 固有受容覚(身体の位置感覚)

  • 自分の体がどこにあるかを感じる能力

    固有受容覚は、筋肉や関節からの情報を脳に伝え、自分の体の位置や動きを把握するための感覚です。例えば、手を見なくても物をつかめるのは、この固有受容覚が適切に働いているおかげです。また、力加減を調整しながら物を持つ、押す、引くといった動作をスムーズに行うためにも重要です。
    この感覚統合がうまく機能しないと、力加減が苦手になり、ペンを強く握りすぎたり、逆に弱すぎて文字が薄くなったりします。また、体の位置感覚がつかめず、ぶつかりやすくなったり、転びやすくなったりすることもあります。細かい動作(ボタンを留める、ハサミを使う)が苦手になり、不器用に見えることもあります。

③ 触覚(皮膚の感覚)

  • 物の硬さ・形・温度を感じる能力

    触覚は、皮膚を通して物の感触や温度、硬さ、痛みなどを感じる感覚です。物をつかむ、手を動かす、力加減を調整するなど、日常生活のあらゆる動作に関わっています。触覚はまた、心の安定やリラックスにも深く関係しており、人とのスキンシップや抱っこなどによって安心感を得ることができます。
    触覚の感覚統合がうまくいかないと、服のタグや靴下の締めつけが気になり、集中できないことがあります(感覚過敏)。また、砂や泥に触ることを極端に嫌がることで、遊びが制限されてしまうこともあります。さらに、鉛筆やスプーンの持ち方が不安定で、筆圧が強すぎたり弱すぎたりすることも、触覚の問題が影響している可能性があります

これらの感覚をバランスよく発達させることで、子どもの運動能力や日常生活のスムーズさが向上します。


5. 感覚統合を育てる運動の重要性

① 姿勢を保つ力(バランス力)

例:一本橋を渡る、平均台、ブランコ

  • 前庭覚を鍛えることで、転びにくくなり、姿勢の安定につながる

② 体の使い方を理解する力(身体図式)

例:トンネルくぐり、マット運動、ジャングルジム

  • 固有受容覚を鍛えることで、スムーズな動きができるようになる

③ 力加減を調整する力(運動制御)

例:風船バレー、粘土遊び、ボールキャッチ

  • 触覚と固有受容覚の連携を強めることで、力の加減がうまくなる

④ 動きをスムーズにつなげる力(両側協調・順序立て)

例:なわとび、大縄跳び、リズム運動

  • 目と手、体の左右の協調を強めることで、スムーズな動作ができる

6. 感覚統合を高める運動のコツと遊びのアイデア

① バランス力を鍛える遊び(前庭覚の発達)

  • 一本橋わたり(平均台)
    → バランス感覚を鍛え、姿勢を安定させる
  • ブランコ・ハンモック遊び
    → 頭の位置をコントロールする力をつける
  • ボールキャッチ
    → 目と体の連携を強化し、動きを予測する力を高める

② 体の使い方を理解する遊び(身体図式の発達)

  • トンネルくぐり・ジャングルジム
    → 体の大きさや動きをイメージする力をつける
  • マット運動(前転・後転・横転)
    → 空間認識能力を高める
  • 障害物競走
    → 体の各部分を適切に使う練習になる

③ 力加減を調整する遊び(固有受容覚・触覚の発達)

  • 風船バレー
    → 力の加減を学びながら、手と目の協調を鍛える
  • 粘土遊び・スライム遊び
    → 指先の感覚を研ぎ澄ませ、細かい調整力をつける
  • ボールを転がす・キャッチする
    → 力加減と動きのタイミングを学ぶ

④ 動きをスムーズにつなげる遊び(両側協調・順序立ての発達)

  • なわとび・大縄跳び
    → 全身のリズム感を育てる
  • リズム遊び(音楽に合わせて動く)
    → 動作をスムーズに切り替える力をつける
  • じゃんけん列車や鬼ごっこ
    → 友だちと一緒にルールを理解しながら体を動かす
理学コメント
理学コメント

感覚統合の発達を促すためには、『楽しく続けられること』 が大切です。お子さんが興味を持ちやすい遊びを取り入れ、少しずつ挑戦できるようサポートしていくことで、自然と運動機能が向上していきますよ。」


7. 日常生活に感覚統合のトレーニングを取り入れる方法

遊びだけでなく、日常生活の中でも感覚統合を高める工夫ができます。

① 食事の時間にできること

✔ さまざまな食感のものを食べる(噛む力や触覚を刺激)
✔ 箸やスプーンを使い分ける(微細な運動能力を鍛える)

② 着替えの時間にできること

✔ ボタンを留める・ファスナーを上げる(手先の感覚を養う)
✔ 服の素材を変えて触覚を刺激(タオル・シルク・ウールなど)

③ お風呂・遊びの時間にできること

✔ シャワーの強さを変える(触覚の刺激)
✔ 石けんで泡を作る(指先の感覚を育てる)


8. 感覚統合を育む際のポイント

感覚統合の発達を促すには、以下の3つのポイントを意識しましょう。

① 「楽しい!」と感じることが大切

感覚統合のトレーニングは、楽しみながら取り組むことが最も重要です。子どもが「やりたい!」と思える環境を作ることで、自然と感覚の発達が進みます。

② 無理をさせず、少しずつチャレンジさせる

感覚過敏のある子どもには、急に強い刺激を与えるのではなく、少しずつ慣れさせることが大切です。例えば、ブランコが苦手な子には「座るだけ→ゆっくり揺らす→高くこぐ」と段階を踏んで進めましょう。

③ 体の特性を知り、得意な動きを伸ばす

子どもによって、得意な動きや苦手な動きは異なります。「できないこと」ではなく、「できること」に注目し、得意な動きを伸ばしてあげましょう。


5. まとめ

感覚統合は、子どもの運動能力や日常生活のスムーズさに深く関わっています。
感覚統合を高めるために、遊びや日常生活に工夫を取り入れることが大切です。

🔹 前庭覚を鍛える → バランス系の遊び(ブランコ・一本橋)
🔹 固有受容覚を鍛える → 体を動かす遊び(マット運動・障害物競走)
🔹 触覚を鍛える → 風船バレー・粘土遊び
🔹 両側協調を鍛える → なわとび・リズム運動

こうした遊びを通じて、子どもが楽しく感覚統合を育める環境を作っていきましょう!



参考文献

  • Ayres, A. J. (1972). Sensory Integration and Learning Disorders. Western Psychological Services.
  • 太田昌孝 (2020). 発達障がい」が気になる子がよろこぶ! 楽しい遊び. PHP研究所.
  • 土田玲子 (2001). 感覚統合Q&A. 共同医書出版社.
  • 佐藤剛 (2001). 感覚統合療法の理論と実践における発展と適応. OTジャーナル35.

参考記事(感覚統合について詳しく知りたい方はこちらもどうぞ)

therapistyu.com「どう支援する?感覚が鈍感な子の感覚からの支援(学校生活編)

おしえて!BRIDGE「感覚統合を促す遊び例17選!

ことばの教室そらまめキッズ「感覚統合ってなに?こどものあの行動は○○感覚からだった⁉

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